灰崎の自由空間

アラサー陰キャ・ぼっち・非リア・コミュ障の男が趣味で文章を書いてます。

祖父との対面

母方の祖父が入所している施設から連絡があった。祖父の意識レベルが下がってきたので、今のうちに会っておきたい人がいるなら来てほしいとのことだった。例の疫病のこともあって会えるのは2人までとのことなので、最近会っていなかった祖母と僕が面会することにした。施設に向かう途中、Web検索も活用しながら、祖父にかけるべき言葉はないかと必死で考えた。個室に入ると、祖父は窓の方を向いて横になっていた。顔色は悪くない。普通に眠っているように見える。だけど、こちらの呼び掛けには無反応。昨日家族が面会した時は多少反応があったのに。感染症対策もあり、祖父の体に触れることは許されなかった。「お父さん」と声を掛ける祖母は、もう覚悟ができているように見えた。なんて強い人なのだろう。これが夫婦の絆か。この2人にもう、多くの言葉は必要ないのだろう。一方、情けないことに僕の方は全く心が整っていなかった。僕は涙目になりながら、祖父を呼びつつ、用意していた言葉を投げかけた。何の捻りもない、「ありがとう」という感謝の言葉だ。僕の両親は病気の影響もあって元々あまり稼ぎが無く、僕の大学進学も少し厳しい状態だった。そんな時、祖父は何の躊躇いもなく僕の学費を出してくれた。必死に働き、浪費もせず、酒もタバコにも手を出さずに貯めたお金を、孫の僕に惜しみなく使ってくれた。僕がこうして社会人として不自由の無い生活ができているのは、間違いなく祖父のお陰だ。僕は祖父に対し、「色々とありがとう、僕は幸せだよ」と、少し大きめの声で伝えた。祖父は少しだけ口元をピクリと動かした。隣にいた祖母は「お嫁さんは間に合わなかったね」と呟き、僕は苦笑いした。最後に「またね」と声を掛け、その場を後にした。帰る途中、祖母は祖父の銀行口座について母と話をしていた。本当に、なんて強い人なんだろう。

ここ数日の流れの速さに正直圧倒されてしまっている。先月は普通に会話ができていたのに、最近になってターミナルケアへ移行。そして日に日に状態は悪くなってきている。僕は祖父との思い出をひとつひとつ頭の中から手繰り寄せる。祖父はなかなか独特な喋り方をする人で、じっくりと話をした記憶が無い。喋るのは難しいと分かっていたので、僕はなるべく同じ時間を過ごすこと、そしてなるべく何かをご馳走することを心がけた。祖父は周りの人に、「孫にご馳走してもらったんだ」と度々自慢していたらしい。どこかのファミレスで金を出した程度だったが、それでも喜んでくれていたようなら良かった。せめてもう一度くらい、祖父とちゃんと話をしたかった。話したいことは色々ある。改めてこれまでのお礼を言いたい。ひ孫の顔を見せられていないことを謝りたい。できることなら、人生について色々と話をしたい。辛いこととか不安とか色々話して、何かしら励ましの言葉が欲しい。でも、やはり本人の話したいことをじっくり聞きたい。一番辛いのは祖父なのだから。気が早いけど、こうしてスマホでぽちぽちと文字を打ち込んでいるだけでボロボロと涙が出てきてしまう。